アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

有難いことに、私の質問を好意的に受け取ってくれたようで、最悪な事態は免れた。しかし並木主任が関係する極秘扱いの事案とはどんなことなんだろう?


ドキドキしながらそのヒントを待っていると、常務がもったいぶるようにオールバックの髪を撫で淡々とした口調で話し出す。


「私はバイオコーポレーションの社員は全員、大切な家族だと思っています。家族はお互いを思いやり、何よりも家族皆(みな)の幸せを願うもの。だが、その中に自分の幸せや利益だけを考え、家族に迷惑を掛ける者が居たとしたら? どうなる?」

「あ、はい、信頼関係は崩れ、その人物に対して不信感が生まれる……」


答えに満足したように大嶋常務が私を指差しニッコリ笑う。そして自分はそれを避けたいと思っていると力説した。


「ちょ、ちょっと待ってください。つまり大嶋常務は、並木主任がその迷惑な家族だと?」

「誤解しないでもらいたい。さっきも言いましたが、私は並木主任に期待している。だからこそ、彼が家族を裏切るような人間ではないという確認作業をしているんですよ」


確認作業……上手い言い方だ。結局は疑っているということでしょ? でも、常務は並木主任の何を疑っているんだろう。


しかしそれ以上は何も教えてはもらえず、仕事に戻るよう指示された。渋々立ち上がり会議室を出ようとドアを開けたのだが、何かにぶつかりゴツンと音がする。


えっ? 何?


不思議に思いドアの隙間から外を覗いてみれば、額を押さえた山辺部長が慌てた様子でドアから離れて行く。そして聞いてもいないのに、なかなか戻らない大嶋常務を迎えに来たんだと説明を始めた。

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