アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
眼鏡の奥で鈍い光を放つ大嶋常務の瞳に言いようのない恐怖を感じ、肩を窄め縮こまっていると、常務が突然我に返ったようにハッと目を見開き、バツが悪そうに長テーブルから手を放す。
「すまない……少し感情的になってしまった」
「い、いえ……」
気まづい雰囲気が漂う中、大嶋常務は苦悩の表情で天井を仰ぎ見ると大きく息を吐く。
「君を問い詰めたところで真実が明らかになることはない。私としたこが、大きな思い違いをしていたようだ」
「あの……」
「本当に申し訳ない。私が今ここで君に言ったことは、全て忘れてください」
そうは言われても、そんな意味深な言い方されたら忘れたくても忘れられない。並木主任に関係していることとなれば尚更だ。
どうしても黙っていることができず、離れて行く常務の広い背中に向かってその"真実"の意味を訊ねてみると、常務の足が止まり凄い勢いで振り返った。
「ほーっ、驚きましたねぇ。私がもういいと言えば、幹部連中でも口を紡ぐのに、君はなかなか勇気のある女性だ」
えっ? 常務に質問するのはタブーなの? ってことは、この状況はかなりヤバいってこと? まさかいきなり解雇とか、そんなことないよね?
最悪な事態を想像して震え上がっていたのだけれど、恐る恐る見上げた大嶋常務の顔はなぜか微笑んでいる。
「実に興味深い。君のようなタイプは私の周りには居ませんからね。……いいでしょう。詳しい内容は社内秘なので話すことはできませんが、少しだけヒントを出してあげます」