アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
始業時間が迫っている。でも、このまま何も聞かず別れたら気になって仕事にならない。
「あ、あの……本当に私が信じていれば、それでいいんですか?」
本当は、もっとストレートに『私のことが好きだから?』って聞きたかったけど、何気にこれが精一杯。
「あぁ、言葉通りだ。俺がこの研究所で腹を割って話せるのは、お前だけだからな」
違う。私が欲しているのはそんな言葉じゃない……そう思ったら、もう我慢できなかった。
「……でも、よく分かんないんですけど、正直なところ、並木主任は私のことをどう思っているんですか?」
あぁ……とうとう聞いてしまった……
期待と不安が入り混じり生きた心地がしない。縋るような目で彼を見つめ返事を待っていると、並木主任が微かに口角を上げる。
「前にも言ったろ? 俺にとってお前は……幸運の女神。生意気で頑固なちっこい女神様だ」
「へっ?」
期待が大きかった分、それとはかけ離れた言葉に落胆する。それに、生意気で頑固という嬉しくないおまけ付だ。
「そう……ですか」
嫌われていないということは確認できたけれど、ひとりの女性として見てくれているかは謎のまま。でも、今の私には、それを確かめる為の勇気も時間も残っていなかった。
後ろ髪を引かれる思いで社用車を降り、他の社員に見つからないよう辺りを気にしながら会社の玄関に向かって歩いて行く。
なんとかギリギリ朝礼に間に合い席に着くと、唯が私の脇腹を突っつき、並木主任とちゃんと話しができたのかと心配そうに聞いてきた。