アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

「――……い……おい、起きろ」

「んっ……?」


誰かが私の体を揺すっている。せっかくいい気分で寝てたのに、誰? と顔を顰めて少しだけ瞼を開けると、目の前に整った綺麗な顔が現れ仰天して飛び起きる。


「な、並木主任……」

「こんな所で寝てたら風邪引くぞ」


ソファーの上にちょこんと正座した私の隣りに腰を下ろした並木主任は、ネクタイのノットに人差し指を差し入れそれを解くと疲れたように大きく息を吐く。


「あぁぁ……お疲れ様です。ご飯、まだですよね? 今温めます」


しかし並木主任は首を振り「いや、まだいい。俺もちょっと休憩……」そう言っていきなり私の膝に頭を乗っけてきた。


うわっ……これって膝枕だ。


もちろん男性に膝枕なんてしたことない。一気に眠気が吹っ飛び上半身だけでアタフタしていた。そうこうしていると頭の重みと共に、並木主任の体温が膝に伝わってきて心臓が騒ぎ出す。


ヤダ、全然動けないんだけど……


どうすることも出来ず緊張でガチガチに固まっていたら、微かに寝息が聞こえてきた。


うそ……寝ちゃった?


見れば、無防備に眠る横顔が視界に入る。


長い睫毛にスッと通った鼻筋、そしてサラサラの柔らかそうなダークブラウンの髪……いけないと思いつつ、その毛先にソッと触れてみた。


「……並木主任」


東京出張から帰った日に遅くまで残業していたんだもの。疲れてるよね。


なんだか起こすのが可哀想になり、子供のように眠る並木主任の顔を眺めていた。でも、時間が経つにつれ彼の頭の重みで足が痺れてくる。

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