フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】

「おい、おまえのダンナもパートナー連れみたいだぞ」

出口に向かって歩こうとしていたわたしの足が、テンシのひとことで止まる。


振り返ってもう一度小笠原を見遣ると、確かに彼と同じシャンパングラスを手に微笑む「パートナー」がいた。

わたしの目が、まるでスイッチが入ったかのように「専門家(モデル)の目」に変わる。


艶やかなストレートの黒髪を、肩の上で前下がりに綺麗に切り揃えたボブスタイル。

光沢のある真っ黒なIラインのワンピースは、デコルテから七分丈の袖にかけて繊細そうな透かしのレースになっている。

だから、そのワンピは黒でも——いや、黒だからこそよりいっそう華やかに映えるデザインだ。

けれども、残念ながらドレスに見えることはない。

それは裾が膝下(ミディ)丈だからだ。


「……惜しいな。なんで、マーメイドラインのドレスとかにしなかったんだろ?」

テンシが(いぶか)しげにつぶやいた。


——やっぱり、そう思うわよね?

確かに、あのワンピのデザインなら裾の丈さえ長ければ、マーメイドラインでもエンパイアラインでも、きっとスレンダーな体型の彼女によく似合う魅惑的な「ドレス」になるに違いない。


「……できないのよ」

なぜ、彼女がドレスではなくワンピースしか着ることが「できない」のか——

わたしは知っていた。

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