フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】

わたしが滞在しているラグジュアリー(クラブ)フロアにあるプレミアスイートは、オーシャンビューのテラスに面したLDKの向こうにベッドルームという間取りだ。

もちろんベッドルームというからには、その奥に広々としたバスルームがある。

そして、そのプレミアスイートのリビングルームの壁面に沿ってどーんと置かれたL字型のカッシーナ(ソファ)に……

——どうして「この人」が座ってるの⁉︎


「……そんなところに突っ立ってないで、早くドアを閉めてくれないか」

わたしの「戸籍上の夫」小笠原 武尊(たける)が、苦虫を百万匹ほど噛み潰した顔で呻いた。

「帰国して以来しばらく別のホテルに泊まっていたんだが、中国の大型連休が始まりすでに以前から予約していた来日客に今晩から部屋を明け渡さなければならなくなった」

脚を組んでソファにどかりと座った彼の傍には、いくつものスーツケースが並んでいた。

「だ、だからって……なんでいきなりわたしの部屋にいるのよ?」

「おれだって、来たくてここに来たんじゃない。
大挙してやってきた中国からの来日客のせいで、都内のホテルはどこもいっぱいなんだ。
それに、佐久間社長——君の父親に連絡は入れておいたはずだがな。
そもそも、彼からここを勧められて来たんだ」

——な、なんですって⁉︎

わたしは肩にかけていたコンスタンス・トゥーゴーからスマホを取り出した。

ストラップの付いたウォレットの割にスマホがすっぽり入るサイズのため、ホテル暮らしでちょっと外に出る際に重宝している。


あわててスマホの履歴を見ると、確かに父からの不在着信があった。

ちょうど、わたしが竜生くんのヘアサロンで極上の気分を味わっていた時刻でマナーモードにしていた。

その後もローレンのお料理に夢中でスマホを触ってなかった。

「ちょ、ちょっと待ってよ!
だからって、急に来られても困るわっ。
ここのベッドルームは一つしかないのよっ」

「フロントからは、この部屋のベッドルームはツインだと聞いている」

彼は平然と言った。

「だ、だからって……あっ、どうしてこの部屋に入れたのよっ⁉︎」

——不法侵入だわっ!

「おれたちは一応『夫婦』だからな。
念のため君の父親に口添えをしてもらったら、すんなりフロントからカードキーをもらえたよ。
……別に、問題ないだろ?」

「問題大アリよっっ‼︎」

わたしは声を限りに叫んだ。

「『夫婦』って言っても、わたしたちは数えるほどしか会ってなくて、ほとんど初対面に近いじゃないのっ!」
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