フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
そのとき、なにやら門扉の方がざわざわし始めた。
ふと、そちらへ目を向けると……
——えっ、うそっ⁉︎
テレビ局のクルーの人たち、もう来たの?
約束の時間まで、一時間近くあったはずだ。
「あっ……柱時計のネジ巻くの忘れてた!」
シッティングルームに置かれた柱時計は、年代物の精工舎のゼンマイ式振り子時計のため、二週間に一回は手動で巻かないと時間が遅れてやがて止まってしまう。
その「御役目」も小笠原から言われてわたしが担っていたのだが、うっかりしていた。
たぶん、すでに三十分ほど遅れていたのだろう。
——参ったな……
今のわたしの格好は、M◯JIのダボっとした生成色のリネンシャツワンピの上に同色のカフェエプロンを着け、髪はターバンで適当にボリュームを抑えながら無造作にくるふわっとお団子を結んだだけの……
つまり、家事に従事する際の定番「手抜き」スタイルだった。
それに、何よりもメイクが……
今朝も小笠原といっしょに朝食を取ってそのあと仕事へ送り出したから、スッピンとはいかないまでも……
うっすーいナチュラルメイクで、こちらも「手抜き」だった!
——でも、今日カメラを回すのは、この家とお庭だけだろうから……
そう思い直して、改めて門扉の方を見たその瞬間……
そこに佇むある人の顔を見て、わたしの息が止まった。