フルール・マリエ


付き合っていることは社内では黙っておこうと千紘とは話していた。

だから、写真も見せるわけにはいかないし、そもそも、牧さんには写真が無くても誰なのか通じてしまう。

「ベタですけど、仕事と私、どっちが大事なの?って私なら言っちゃうかもしれません」

「仕事だからね。仕方ないよ」

「寂しくないですか?」

そう改めて訊かれると、逡巡してしまう。

千紘は今日、昼から本社に行っていて、仕事がどれくらいに終わるかわからないと言われていたので、クリスマスだが、特に約束はしなかった。

仕事だから仕方ないな、と簡単に諦めたのは本当だし、帰っても両親がいるからケーキくらいあるだろう。

そうなると、一人ぼっちというわけでもないし、去年と同じクリスマスなだけだ。

「あ、じゃあ、お先に失礼しまーす」

牧さんは支度が終わったのか、甘い香りを残して慌ただしく帰って行った。

事務所に一人残され、静まった空気に突然虚しさを感じた。

鞄から携帯を取り出したが、新しいメッセージは無い。

連絡してみようか。

いや、まだ仕事中だったら邪魔するのも悪いし。

迷った結果、携帯を鞄にしまって戸締りをして帰路に着いた。


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