フルール・マリエ
家からの最寄駅に電車が到着する寸前、鞄で携帯が鳴り始めたので、見ると千紘の名前が表示されていた。
ホームに降り立ったところで、電話に出ると、機械を通した千紘の声がいつもより高く甘く聞こえて、何だかどきりとした。
「仕事、終わったの?」
『うん。だから、会いたい』
タイミング良く電話が鳴ったことに驚いていて、構えていなかったせいで、唐突な直球ワードに胸が高鳴った。
「今、駅にいるの。家の最寄駅」
『じゃあ、駅で待ってて。10分くらいで着くから』
電話が切れると携帯を胸に当てて、少女のようにときめいてしまっていた。
会いたい、と真っ先に言われた事がこんなにも嬉しい。
駅の前で輝いているツリーが程よい光に見えて、満たされたような気分だった。
さっきまで見えていた風景は、いつの間にか嫉妬のフィルター越しに見てしまっていたのかもしれない。