フルール・マリエ


家からの最寄駅に電車が到着する寸前、鞄で携帯が鳴り始めたので、見ると千紘の名前が表示されていた。

ホームに降り立ったところで、電話に出ると、機械を通した千紘の声がいつもより高く甘く聞こえて、何だかどきりとした。

「仕事、終わったの?」

『うん。だから、会いたい』

タイミング良く電話が鳴ったことに驚いていて、構えていなかったせいで、唐突な直球ワードに胸が高鳴った。

「今、駅にいるの。家の最寄駅」

『じゃあ、駅で待ってて。10分くらいで着くから』

電話が切れると携帯を胸に当てて、少女のようにときめいてしまっていた。

会いたい、と真っ先に言われた事がこんなにも嬉しい。

駅の前で輝いているツリーが程よい光に見えて、満たされたような気分だった。

さっきまで見えていた風景は、いつの間にか嫉妬のフィルター越しに見てしまっていたのかもしれない。



< 118 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop