フルール・マリエ


開店前の最後の仕上げとして、真田さんを前に半円を描いて黒いスーツを着た女性ばかりの従業員が並び、お互いに服装に乱れが無いか、チェックする。

笑顔とお辞儀の練習をして、最後に「よろしくお願いします」と礼をして、レンタルウェディングドレスショップ、フルール・マリエが開店した。


初めのお客様は今日が初回の試着である、神崎様。

メタルフレームのメガネが涼やかで、背の高い新郎は、休日にも関わらず、しっかりとジャケットまで羽織ったスーツ姿が決まっていた。

新婦はピンク色のワンピースにベージュのジャケットを着て、とても華奢で目がクリクリとした、ふんわりとした癒し系だ。

「担当させて頂きます、朝見です」

並んだドレスを横に見ながら、ブラウンで統一されたテーブルと椅子の前に2人を通す。

新婦は既に目に入っている周りのドレスに心を奪われている様子だ。

フルール・マリエでは、椅子に座って打ち合わせを進めながら、いつでもドレスを見られるように打ち合わせスペースには壁が一切ない。

隣が見えてしまうのだが、それも1つの狙いで、打ち合わせスペースごとに設けた試着室から出てきた隣の新婦を見て、イメージを膨らませてもらったり、心を更に弾ませてもらいたいという思いが込められている。


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