それがあの日の夢だった

私は彼の話を聞いて思った。
なぜ彼は自分のことを醜いと罵るだけで努力をしないのだろう？太ったなら頑張って痩せればいい。醜いなら美しくなる努力をすればいいじゃないか。

「簡単なことじゃないんだよ！美しくなるのは！知らない人間が分かったふうに言わないで！」

彼は自分から話したくせに私は罵倒する。
本当に彼に関わるんじゃなかった。

「でも努力しないと何も変わりませんよ？」

「うるさい！」

なぜだろう？私は間違っていないはずなのに。
何で私が怒られなきゃいけないんだ？

「僕が稼がないと妹が生活できないだろ？自分じゃ何も出来ない僕は女の子にお金をもらうしかなかった…」

そうか。私は誤解していた。
これでもちゃんと妹の為を思って、必死に頑張っていたんだ。彼なりに、出来ないなりに努力して…。

「僕が頑張らないと誰が頑張るんだ」

「あなた、頑張れてるじゃないですか。それだけ妹の為に頑張れるなら、きっと美しくなる努力だって出来るはずです！そんなに自分を見くびらないでください！」

ありきたりな事しかか言えなかった。
でも彼には通じたみたいだ。

「うん！僕、頑張るよ！やってみるよ！」

「頑張って下さい！」

「気にてくれてありがとう！君のお陰で僕の人生なんとかなりそうだ！」

彼は去り際に先ほどまでのネガティブな言葉からは想像出来ないくらい楽天的な発言をして、走っていった。

なんだったんだあの男は本当に。







「来羽、こんなところにいたの」

気づくと私の後ろにはお母さんが立っていた。
私があまりにも遅いため心配して探してくれたのだろう。

「ごめん、お母さん。今行く」



明日はこの村を離れる。私が生まれ育ったこの村を。涙が出そうになるのを必死でこらえる。


東の空がうっすらと明るくなっていく。

夜明けが近い……