それがあの日の夢だった
放課後、私は珍しく自ら麻弥ちゃんに駆け寄った。

麻弥ちゃんが珍しそうにこちらを見ている。

聞いたらいけない気がしていた。
これは完全に知らぬが仏だと。

でも聞かずにはいられなかった。

「ねぇ、今朝言ってた生け贄って?」

ああ、聞いてしまった。
案の定、後悔することになる。

「…生け贄を、生きた人間を一人ヒヒ様に捧げないといけないの。じゃないとヒヒ様がこの町の人間を皆殺しちゃうから」

なんだそれは。ふざけるな。

「皆を守るために、生け贄になった人はヒヒ様の元へ行かないと…」


麻弥ちゃんがうすら笑う。

よく見ると、その目には涙が滲んでいるようなきがした。

「そんなのおかしい!人の犠牲を正当化するなんて…」

私の声が震えている。
私の脳にはあの村が浮かぶ。
化け物に破壊され、皆殺しされた、あの悲劇の村が。私とお母さんのたった二人しか助からなかったあの惨たらしい悲劇の村が。


この人達は知らないんだ。
生きているありがたみを。
生きていたくても生きられないのに。
化け物に殺された人は生きていたくても生きられなかったのに!

「どうして自ら命を捨てるの!?」

私の体から出たとは思えないような大きな声が出た。

「しかたないじゃない!」

麻弥ちゃんも負けずに叫ぶ。

遂にその目から涙がこぼれた。

「皆を助けるためだもの…」

麻弥ちゃんのこのセリフで私は考えたくもなかった最悪の真実を確信した。

「一人で死ぬなら、皆で死んだ方がマシだ」

自分でも何を言ってるのか分からなかった。

ただ、私には何故か確信があった。

「一人で死んだら残された人が悲しむ。でも皆で死んだら残されて悲しむ人はいないでしょう」

言い終わったとき、私は今のが失言だということに気づいた。

「最低…」

麻弥ちゃんはこの言葉だけ私に言い残すと教室を去っていった。

気づいた時には、教室には誰もいなくなっていた。

そして多分、今度の生け贄は…。
麻弥ちゃんだ。
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