君の手が道しるべ
「だからってなんで私までタクシーに乗せたのよ! 絶対、藤柳さんに誤解されるでしょ!」

「別にいいじゃないですか、誤解されたって。勝手に誤解しててもらえばいいんですよ」

 シートに身を沈め、面倒くさそうに言う。私は思わず額に手を当てて、

「あんたはわかってないのよ、彼女の本性を……」

 と絶望的な声でつぶやいてしまった。

「本性?」

 大倉主査が私を見る。いつものにやにや笑い。完全に面白がっている表情だ。私は半分自棄になって言った。

「そうよ! 藤柳さんを敵に回すと怖いんだから!」

「誤解されることが敵に回すことなんですか?」

 そううそぶく大倉主査を見て、私ははっと気づいた。

 もう、わかっているんだ。単に「嫌い」なだけじゃなく、大倉主査は梨花の本性を見抜いていたんだ。

「まあ、せっかくの金曜日ですし、面倒なことはこの際置いときましょう」

 前方に視線を戻しながら、大倉主査はにっこりと笑って言った。

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