君の手が道しるべ
大倉主査に連れて行かれた店は、フレンチとワインのレストランだった。

 確かにここなら、「見つけた」という表現になるかもしれない。表通りから少し離れた住宅街のなかに、まるで一般住宅みたいな佇まいで建っていたからだ。
 
 店先に小さな看板が出ていたけれど、それだって、そうとわかって見なければ気づかないくらい控えめだった。

「よくこんなところ見つけたね」

 一杯目の軽いワインに口をつけて私は言った。

「ええ、まあ。見つけたっていうか、ほんとは知り合いがやってる店なんで」

 向かい側に座った大倉主査が肩をすくめて微笑む。
 なあんだ、と思ったとたん、なぜかふっと肩の力が抜けた。私のために見つけた店、っていうわけじゃなかったんだ。当然だけど。

「知り合いって、どんなつながりなの?」

「学生時代からの友だちですよ。昔から料理好きで器用で、ちょいちょいうちに来て料理作ったりしてたんですけど、それがうまいから、店出せばいいのにってずっと言ってて。ようやく、形になったんで」

 仕事の話をしているときの大倉主査とは別人のような雰囲気に、私は意外な思いで彼を見ていた。いつもはもっとシニカルで、どことなく冷たい雰囲気すら感じていたのに、今、眼の前にいる大倉主査は、優しく暖かな微笑みを浮かべている。

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