君の手が道しるべ
資産家には謎が多い。
地図で確認してはいたけれど、実際に太田さんの家の前まで来て私も梨花も驚いた。

「……すっごい豪邸だね」

 うちの店の営業エリアからはやや離れている場所にあるので、私も梨花もこのあたりの土地勘はまるでなかった。

 近づくにつれて立派な門構えの家が増えてくるなとは思っていたけど……その中でも太田さんの家は別格で大きい。
 
 ドラマの撮影にでも使われそうなレンガ造りの門柱に、背よりも高い鉄製の門扉。その向こうに見えるのは、手入れの行き届いた庭と、重厚感のあるお屋敷だ。庭木も完璧に剪定されている。どう考えてもちゃんとした植木職人さんの手によるもの、としか思えない。

「ヤバくないですか? このお屋敷! めっちゃお金持ちじゃないですか! テンション上がりますね!」

 梨花はすっかり舞い上がって、門扉から中をのぞき込んでいる。私はそれには反応せず、門柱につけられたインターフォンのボタンを押した。

『はい』

 聞こえてきたのは若い女性の声だった。太田さんの娘にしては若い気がする。孫かな、と内心思いながら私は社名を名乗った。

『はい、承っております。中へどうぞ』

 インターフォンがそう答えると同時に、重そうな門扉がゆっくりと押し開いた。もう完全に映画かドラマの世界だ。これで黒塗りの外車でもあれば画的に満点だ。

< 40 / 102 >

この作品をシェア

pagetop