君の手が道しるべ
「びっくりしました? 調査役」

 すたすたと歩み寄ってくる彼に、太田さんが苦笑する。

「かわいそうに。こんなにびっくりさせて……私は反対したんですよ、永瀬さんに悪いって、ね」

「でも最終的には賛成したでしょう。むしろ乗り気だったように見えましたけどね」

 ふたりのやりとりを見ながら私はなんとか息を吸い、震える声で言った。

「なんで……なんで、大倉主査がここにいるの? 今日はお休みだったんじゃないの?」

「もちろん。お休みですよ。だからここにいるんです」

 またしても絶妙のタイミングで家政婦さんが紅茶を出してくれる。太田さんの隣に座った大倉主査は慣れた様子でシュガーポットから砂糖をすくい、目の前のカップに入れた。

「……意味わかんない……」

 私が息も絶え絶えにつぶやくと、太田さんが微笑んで言った。

「まずは座って、紅茶を飲んで落ち着きましょう。これにはちょっとしたわけがありますからね」

「そうですよ。いつまでそんな中途半端な体勢でいるつもりですか」

 そのもの言いにむっとして、私は思わず大倉主査をにらみつけてしまった。だいたい誰のせいでこんなにびっくりしたと思っているんだ、この男。

 とは言え、体勢的に不自然なことは確かで、私は大倉主査をにらんだまま腰を下ろした。
 当の本人は涼しい顔で紅茶を飲んでいる。

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