君の手が道しるべ
3億円の種明かし。
太田さんのお宅に伺うと、前と同じように若い家政婦さんが出迎えてくれて、あのひんやりと静かな廊下を抜け、突き当たりの部屋に通された。

「よく来てくれましたね、永瀬さん」

 ソファから立ち上がった太田さんはにっこりと笑って、私を出迎えてくれた。

 クレームとまでは行かなくとも、なにか面倒な相談事をされるのではないかと内心びくびくしていたのだけど、この雰囲気なら心配はなさそうだ。

「いえ、ご連絡いただいてこちらこそありがとうございます」

 仕事用の笑顔でそう答え、太田さんにすすめられるままにソファに腰かけようとした、その瞬間だった。

 入り口とは反対側にある、隣の部屋とつながっているらしいドアが不意に開いて、よく知っている人物が入ってきたのだ。

 私は息が止まるほど驚いて、空気椅子の体勢で固まってしまった。

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