君の手が道しるべ
太田さんがさらりと言ったその言葉で、私は目も口もまんまるに開けたまま、カップも手に持ったまま、動きを完全に止めてしまった。

「ま……孫?」

 息すらしていなかったから、そのとき私の体で動いていたのは心臓と、震える唇だけだったに違いない。

「そんなにびっくりしましたか?」

 大倉主査が面白そうに私を見ている。それでようやく呼吸が戻り、まばたきが戻ってきた。

「びっくりしないわけないでしょ、いきなり、孫だなんて言われて……」

 私が反論すると、太田さんが穏やかな笑い声を立てた。

「そう。孫なんですよ、この悠介は。娘孫だから名字は違うけれど、れっきとした私の孫でね、小さい頃から生意気な子でしたよ」

「生意気、はいらないよ、おじいちゃん」

 太田さんを「おじいちゃん」と呼んだ大倉主査の口調はとても柔らかくて自然で、それで私はこの突拍子もない話を聞く気になった。会社では聞いたことのないような、あたたかい大倉主査の声。

 そうか。大倉主査の下の名前は、ユウスケっていうんだ。

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