君の手が道しるべ
銀行にはつきものの人事異動。
 今回の異動で、うちの支店には主査がひとり来ることになっていた。
 20代後半の男性行員で、同期入社の中ではトップを切って主査に昇格したらしい。
 異動の内示が出た日、梨花が言っていたのを思い出す。

「すっごいイケメンなんですって! 前に運用課にいたとき、取引先のお金持ちのマダムに言い寄られてたって。デートしてくれたら生命保険1億で契約するって言われたのに、あっさり断ったって噂聞きましたぁ」

 週刊誌の記者か、お前は。
 浮かれる梨花に内心でツッコミを入れつつ、私は無関心な表情を貫いたのだけど、そのまま仕事の忙しさに紛れて本当に無関心になってしまっていた。

「金曜日ね。私も大丈夫だから参加するわ」

「よかった!」

 栞ちゃんがにっこり笑って、クリップボードの出欠表の私の名前にマルをつける。

 本当は、金曜日はひとりで映画でも見て、いつも行くバーのカウンターでゆっくりお酒でも飲もうと思っていたのだけど、仕方ない。
 プライベートより仕事を優先させてしまうのも、おひとりさまが板についてきた故の悪い癖……のような気がする。

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