君の手が道しるべ
王子降臨。
翌日。

「おはようございます」

 いつものように営業室に入ると、副支店長に連れられて行員に挨拶回りをしている男の子の姿が目に飛び込んできた。

 男の子……というと、本人に失礼かも。年齢は20代後半だし、そつのない物腰は完全に大人の男だ。
 身長は180センチ前後ってところか。癖のある黒髪、茶色の瞳は切れ長の奥二重、皮肉っぽい笑みを浮かべた口元。
 スリムすぎない品のいいスーツを着こなして、黒の革靴はつやつやに磨かれて。
 深いえんじ色のネクタイを形よくしめているあたりに、この男性が只者じゃないことが見て取れる。

 うーん。

 はっきり言って、こんなかっこいい男性がうちの銀行にいるとは思いもしなかった。
 見た目で言うなら会社員というよりはファッションモデルのほうがしっくりくるくらいだ。
 しかも同期入社の中ではトップで昇格というのだから、お金持ちのマダムでなくても口説きたくなる女性は多いに違いない。

 そんなことを思いながらまじまじと見つめていると、副支店長が私に気づいた。

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