君と描く花言葉。
「……出来た」
ものの数分で大体のアタリを描き切ったセイジは、鉛筆を置いて真っ白なパレットと筆を手にした。
そこに絵の具はない。
「それじゃあエリカ、自分が思った色の絵の具を取って渡してくれる?」
「私が思った色……花びらのでいい?」
「どこのでもいいよ。
なにも言わないで、思ったままに渡してほしい」
「え……それじゃあ……」
どこの色かわからずに描くってこと?
よりにもよって茎だけじゃなく花びらまで緑色で、グラデーションがかかった私のマーガレット。
そんなの……さすがに無茶じゃ……。
私の不安を感じ取ったのか、セイジがふわりと微笑む。
「いいんだ。
絵を描くには、想像力が必要。
言われたままに描いても、それは違うと思うから」
「……そっか。
わかった。じゃあ……これ」
セイジがそう言うなら……私は、信じるしかないよね。
私が渡したのは、黄緑色だ。
やっぱり一番のイメージカラーはこれだよね。
「どんどん渡して。
渡された色を全部見て決めるから」
「う、うん」
えぇと、他には……緑、濃いめの緑。それから、薄めたり濃くしたりには白と黒も必要だよね?
あとは黄色混ぜたりすると綺麗かな……。
机の上に置かれた絵の具の中から、あれもこれもと手にとっては渡す。
セイジは全て黙って受け取って、色味を確認しているようだった。
「……こんなもんかな」
「おしまい?」
「うん。これで描いてみて?」
「……わかった。上手くいくかはわからないけど」
「大丈夫。出来なかったらまた他の方法を探せばいいよ」
「ん……そうだね。描いてみる」
「うん」
「あ。暇だったら、エリカも何か描いてていいよ。
それか、俺の行きつけの花屋さんにでも行ってみる?
すぐそこだけど」
「え!行ってみたい!」
「ちょっと待って。簡単に地図描くから」
セイジは側にあったスケッチブックを手に取ると、迷いもせずにサラサラと道順を描いていく。
私、自分の家の近所でもこんなに綺麗な地図描けないよ。
セイジの空間認識能力は一体どうなってるの……?
絵を描くから空間認識能力が長けてるのか、空間認識能力が長けてるから絵が上手いのか……。
……どっちもかな。
相変わらず、セイジにはよく驚かされる。