この空を羽ばたく鳥のように。

* 六 *






日射しが強まってきた初夏。

そよ風の吹く穏やかな日。
わが津川家は、にわかに慌ただしかった。


書庫として使っていた部屋が雨漏りしていると判明したため、
天気のいい今日を見計らって、屋根を修理しがてら山積みになっていた書物すべてを外に出し、虫干しと大掃除をしようということになってしまったのだ。



「……まったく!なんて量かしら!父上もこれを機に、少しは処分して下さったらいいのに!」



一家総動員しての大仕事に文句を言いながら、埃(ほこり)やカビにまみれた書物を庭にひかれた筵(むしろ)の上にドサリと積み上げる。



「これ さより!お父上の大切な書物ですよ!もっと丁寧に扱いなさい!」



粗雑に扱う私を見て、すぐさま母上のお叱りの声が飛んでくる。



父上は読書家だ。いろんな書物を取り寄せては、空いた時間に読み耽(ふけ)っている。




「はあい」



気の抜けた返事を返すと、これまた母上にジロリと睨まれ肩をすくめた。



(こんなキッタナイ書物、この先読むあてなんてあるのかしら?)



訝りながら次に運ぶ書物を取りに行こうとすると、
この肉体労働をさぼっている人物を見つけ、足を止めてその場で大声で名前を呼ぶ。



「こらあ!喜代美!」



喜代美は縁側に腰掛け、仕事そっちのけで一冊のキッタナイ書物に熱心に目を注いでいた。



(……いた。ここに)



キタナイ書物を読むヤツが。


ではなくて、女の私がこんな重労働してるのに、なに座って呑気に書物なんか読んでんのよ!と怒りをあらわにして、

ズカズカと喜代美の前まで来ると、仁王立ちになって怒鳴りつける。



「ちょっと!読むなら全部運び終わってからにしなさい!」



すると喜代美は、書物に落としていた視線を私に向け、すっくと立ち上がった。


見下ろしていた体勢からいっきに見上げる体勢となり、「な、何よ!?」と つい怯んでしまう。

さらに両手をわしっと掴まれたのでギョッとした。



そんな私に、喜代美は瞳をキラキラと輝かせて口を開く。



「ああ、姉上!私は存じ上げませんでした!
津川のご先祖さまとは、なんと素晴らしい方がたなのでしょうか!」


「……はあ?」



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