この空を羽ばたく鳥のように。




 ………なさけない!なんと情けない!!



 なんてことなの!?
 喜代美が悪く言われるだけならともかく、父上まで愚弄されるなんて!!



 拳をギュッと握りしめる。



 ――――『臆病者』!



 会津武士の子弟は、決して臆病者などと言われてはならない。
 武士は常に勇敢であり、強く誠実でいなければならないからだ。
 けして卑怯な振る舞いなどしてはいけないからだ。


 その心身を鍛えるために、毎日 日新館に通っているのだ。

 臆病者と言われることは、武士の恥だ。



 情けない。津川の跡継ぎがそんなふうに嘲笑されるなんて。
 このことが父上の耳朶に触れたら、どれほど落胆なさるだろう。



 ………地べたに小さな丸い点がいくつも描かれる。



 私はうつむきながら、悔し涙を流していた。










 ※愚弄(ぐろう)……人をばかにして、からかうこと。

 ※耳朶(じだ)()れる……聞き及ぶ。人づてに聞いて知る。

 ※落胆(らくたん)……期待どおりにならなくて、がっかりすること。失望すること。

< 15 / 566 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop