この空を羽ばたく鳥のように。
第二章 女たちの戦い 〜いざ、籠城戦へ!〜

* 八月廿ニ日 *






 昼をだいぶ過ぎると、黒い雲が重くたれこめた空から、とうとう雨が降ってきた。

 空を見上げ、彼方の様子をうかがうように耳を澄ます。
 山の向こうからは、雷とも大砲とも知れぬ不気味な音が響いている。



 「さよりお嬢さま、裏庭の作物はいかがいたしましょう」



 おたかに声をかけられて、飛ばしていた意識を引き寄せると、そちらに顔を向ける。



 「そうね。もう食べられそうなものは全部収穫して。傷みやすいものは調理しておくの。
 芋とか南瓜とか、保存のきくものは筵にくるんで裏庭のすみにでも埋めておきましょう」

 「かしこまりました」



 おたかに指示して裏庭へ向かわせると、今度はみどり姉さまへ顔を向ける。



 「いざという時の金子(きんす)や大事なものはどこに隠しておきますか。やはり土間に埋めておきましょうか」



 訊ねると、みどり姉さまは目を伏せて首を振った。



 「土間はだめね。どんなに地ならししても、掘り起こした場所がすぐにわかってしまう。
 万が一 敵が城下に攻め込んできたら、屋敷の中はすべて荒らされるわ。そしたら全部持っていかれるでしょうね」



 私も頷いた。



 「では、金子や大事な物は、見つかりにくいよう(かめ)に入れて納戸の床板の下に埋めておきましょう」

 「お米もなるべく炊いておむすびにしておくといいわね。残りの米は梅干しや味噌と一緒に小分けにして運びやすくして。
 いざお城にあがっても、自分達の口はできるだけ自分達で(まかな)わないと。大事な兵糧を食い潰すわけにはいかないわ」

 「はい。ではそちらもすぐ取りかかります」



 言いながらみどり姉さまと目が合うと、どちらからともなくふっと笑みがもれる。



 「やることがてんこ盛りね」

 「まったくです。休む(いとま)などありませんよ、みどり姉さま」





 ――――十五歳から六十歳までの男子が登城したあと、喜代美たち白虎士中二番隊は、護衛兵としてお殿さまに従い滝沢本陣へ出陣した。

 昼九つ半(午後1時頃)を過ぎたころだった。

 お城から出立するお殿さまと喜代美を見送り、屋敷に戻ったあと、体調がすぐれずそのまま寝込んでしまった母上の代わりに、
 私とみどり姉さまは、いつ鳴るともしれない早鐘の知らせに耳を研ぎ澄ませながら支度に追われていた。




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