この空を羽ばたく鳥のように。




 そうだ。私は自分で決めたんだ。

 この家を、家名を守ると。
 そして喜代美が大切に思う人達を守ると。



 (源太の言うとおりだ……)



 いま、私がすべきことは、喜代美を探すことじゃない。
 喜代美はそれを望まない。


 そのことに気づくと、(もや)が晴れて視界がはっきりしてくるようだった。
 目元の涙を払い、心配する源太の顔を見つめる。



 「そうね……私どうかしてた。喜代美が留守のあいだは、私が家族を守ると決めたのにね」

 「さよりお嬢さま……」

 「さあ、すぐに支度をしなきゃ」



 精一杯明るく言うと、源太もわずかに安堵して頬をゆるめた。



 「そのとおりでございます。私もお手伝いいたしますから」





 深呼吸をひとつして気持ちを切り替えると、えつ子さまを振り返る。
 座り込んだまま、私と源太のやりとりを見つめていたえつ子さまに近寄り、手を取って立ち上がらせると、頭を下げて深く詫びた。



 「えつ子さま……まことに申し訳ございません。私は喜代美から津川家の家名と、そして家族を守ることを委ねられました。私はその義務を果たさねばなりません。
 喜代美を探しに行けぬこと……どうかお許しください」



 立ち上がったえつ子さまは、潤んだ中にも覚悟を定めた目で私を見下ろし首を振った。



 「それでよいのですよ、さよりさん。それでこそ武家の女子(おなご)です。
 あなたのお気持ちはもう充分伝わりました」

 「えつ子さま……」

 「ありがとう、さよりさん。喜代美を探す必要はありません。
 あの子とて、ひとたび戦場に出たならば、生きて帰ろうと思わぬはずです」



 えつ子さまはにっこり微笑んで、一度だけ目元を拭うと声を強めた。



 「さ、支度いたしましょう。ぐずぐずしてはおれませんよ」



 常日頃 気丈に振る舞うえつ子さまでも、大事なわが子を続けざまに失うかもしれない恐れはどれほどだろうか。


 前掛けを取り払い、気持ちを引き締めるため、たすきを縛り直すえつ子さまに、私は正直な思いを告げた。



 「えつ子さま。私は信じております。
 生きて再び喜代美に会えることを。
 ともに手を携え、生きてゆけることを。

 私はあきらめません。絶対に」







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