この空を羽ばたく鳥のように。



 「わあっ」と、敵を駆逐できた歓声が婦人達のあいだで沸き起こる。

 決死隊の兵達は勢いに乗って追撃する。その中に槍を手にした源太の姿を見つけた。



 (源太……!)



 無事な姿にホッとするも、遠方からすぐさま放たれた敵の射撃を受けて、決死隊もたたらを踏んだ。激しい反撃に追撃を諦めざるを得なくなり、源太達の隊は分散した。



 (源太……!どうか無事で……!)



 「ご婦人がた、ご助勢感謝いたす。じゃが銃撃戦では太刀打ちできぬゆえ、門の中へ戻られよ」



 讃岐門の守衛の甲士(士官)らしき藩士にうながされ、きち子さまはうなずいた。



 「さようでございますか。ではわたくし達はご老公(容保)さまへご報告がございますれば、これにて」



 失礼しますと言葉が続くはずだった。
 でもその声は、続けざまに放たれた銃声の音に掻き消された。



 「ご婦人がた、お早く!」



 再び銃撃が迫ってきた。何という飛距離だろうか。敵の姿は見えないのに、弾はどんどん飛んでくる。私達は味方の兵に急かされるように讃岐門まで押し戻された。

 味方の兵が、たちまち何人かやられる。
 兵達に庇われながら讃岐門の潜り戸から城へ入ってゆくが、焦っているためか薙刀が狭い潜り戸に引っかかり思うように進まない。



 「早く中へ!」



 私は最後尾にいた。前をゆく婦人達が次々と門をくぐるなか、ふいに後ろから鋭い声があがった。



 「そこのご婦人!」



 私のことかと後ろを振り向くと、そうではない。

 味方の兵達は、石垣や胸壁の陰に身をひそめて銃弾を防いでいる。そんな中でひとり、隠れもせず身をさらして佇んでいるご婦人がいた。あの目覚ましい戦いぶりを見せた、山吹色の着物の女性(ひと)だった。



 「ご婦人!そんなところにいては危ない!」



 兵士のひとりが心配して声をかけるのに合わせて、私もあわてて声をかける。



 「もし、そこは危険です!早くこちらに!」



 誰が怒鳴っても彼女は動かない。ますます焦って声を張りあげた。



 「早く!そんなところにいては、弾に当たってしまいます!こちらへ!さあ!」



 すると彼女はこちらに顔を向けてかすかに微笑んだ。

 悪い予感がして、思わず彼女の元へ駆け出す。
 無理やりにでも連れ戻そうと思った。

 けれど――――。


 パン!パン!と 連続した破裂音が耳に届いた刹那、彼女の身体にいくつもの真紅の花がパッと咲いた。


 目を瞠った。

 ゆっくりと、彼女は地面に(くずお)れる。



 ――――ああ。どうして。何故こんな。


 彼女の元へ走りながら、手をのばす。

 その姿が涙で霞んだとき、私のみぞおちにも、はじける音とともに強い衝撃が襲った。





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