この空を羽ばたく鳥のように。



 こういうところが、会津武士の強さだと思う。

 曲がったこと、間違ったことに対して、決して屈さない反骨精神。


 『ならぬことはならぬ』。


 その精神は、たとえ勝てない戦と分かっていても、己の死を目の前にしても折れることはない。だからこんな銃創で弱気になったりなどしない。

 現に籠城という窮地に立たされていても、家中で「もうダメだ」と悲観的になる者などいない。老人や女子供ばかりのこの状況でも、城内の士気は高かった。


 正義は わが殿にあると信じているから。


 もうすぐ精鋭部隊が戻ってくる。仙台藩や米沢藩からの応援部隊も来てくれるはず。

 何とかして、それまで持ちこたえられれば―――皆、そんな思いで働いているのだ。



 「では 一日も早く復帰して、また敵を苦しめてくださいませ。坂井さまならきっと、さらなるご活躍ができますよ」



 私が言うと、坂井さまもニッと笑い強くうなずく。



 「もちろんです。こんな(かす)り傷、すぐにでも復帰し敵に目に物見せてやります」



 気概を見せる彼に、頼もしさを感じる。弱々しい様子が見られないところも、おさきちゃんの安堵につながったのだろう。



 「はい。とりあえず応急処置は済ませたけど、あとでちゃんと先生から診察してもらってね」



 新しい包帯を巻き終わって、おさきちゃんは坂井さまに向けて微笑んだ。



 「お腹、空いてるでしょう。傷を癒すには、まず精力をつけなくちゃ。待ってて、今 おむすびをもらってくるから」

 「あ、じゃあ私がもらってくるわ。おさきちゃんはここに」



 おさきちゃんが腰を上げるのを(とど)めようと言うと、彼女は軽く頭を振る。



 「おさよちゃんは源吾どのの話し相手になってあげて。ほら、私だと口喧嘩になっちゃうから」


 (え……でも、私よりおさきちゃんがいたほうがいいんじゃ……)



 なんとなく言葉にできず、立ち上がるおさきちゃんをそれ以上留められずにいると、その背中に坂井さまが声をかけた。



 「あ……さき姉!……手当て、ありがとな」



 お礼など言い慣れてないのか、恥ずかしそうに口をすぼめて坂井さまが言う。
 振り向いたおさきちゃんはからりと笑った。



 「お礼を言うのはこっちよ。久しぶりに源吾どのの可愛くない態度見てたら、なんだか可笑しくて。でも元気な姿を見れてよかった。私も元気をもらえたわ」



 いたずらっぽく言って、軽い足取りで大書院を出てゆくおさきちゃんを、坂井さまと一緒に見つめる。


 負傷者は溢れるばかり。手当ての甲斐なく命を落とす者も後を絶たない。

 目の前にある命を救うことのできない虚しさを、この日だけでもたくさん味わった。おさきちゃんだって気分が塞いでいただろう。

 そんな中での坂井さまとの再会。しかも変わらぬ態度で接する彼は、彼女にとっても心和ませるものであったに違いない。

 おさきちゃんにとって坂井さまは弟君と同じ。お身内のように親身になれる間柄なのだろう。


 おさきちゃんの姿が見えなくなっても、坂井さまは彼女が向かった先を見つめ続ける。

 戻ってくるのをひたすら待つような、そんなまなざしを向けている彼に、とても私なんかが話し相手になることなんてできなかった。

 彼の中にどんな感情があったのか、私には知る由もない。










 ※反骨(はんこつ)……容易に人に(くみ)しない気骨。権勢に抵抗する気骨。

 ※()物見(ものみ)せる……ひどい目にあわせる。思い知らせる。

 ※気概(きがい)……困難にも屈しない強い意気。


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