この空を羽ばたく鳥のように。



 その夜も更けた頃、おますちゃんとおさきちゃんと集まって話をした。

 暗闇に包まれ 砲の音が止むと、いくらか人気(ひとけ)のなくなった大書院の広縁に三人並んで腰掛け、久方ぶりにそろった顔ぶれにお互いの無事を喜んだ。



 「丹下さまは、姉上が(とつ)いだお相手なの」



 おますちゃんはそう教えてくれた。



 「まだ私も()していない頃は、よく実家を訪ねてくださった。
 気さくで朗らかな方で。丹下さまがお越しになられると、家の中が明るくなるようだったわ」



 (あ、それって……)



 私も、喜代美が家にいて思ったこと。

 喜代美のつくる、優しい雰囲気。
 皆が心安く笑っていられる空間。

 喜代美がいるだけで、家の中が暖かくなるの。


 なるべく考えないようにしているのに、喜代美のことを思うと、会いたくてたまらなくなる。
 どこにいるのかも知れない喜代美のもとへ駆け出したくなる。


 その気持ちを抑えるために頭を振った。
 喜代美はきっとお城へ戻ってくるはずだから。
 ここで待っていれば大丈夫、また会える。
 そう自分に言い聞かせて。


 丹下さまのお顔を思い出してみる。
 戦いの後だから、血に塗れた苦しそうなお顔だったけど、役者のような端正なお顔をなさっていた。



 (おますちゃんは、もしかして……)



 役者好きのおますちゃん。けれど本当は、役者が好きなのではなくて……。



 (―――いいえ、それは聞くまい)



 今さら訊ねても、詮無いこと。


 丹下さまのご遺体は丁寧に布団にくるまれて、先ほど城内の空井戸に葬られたそうだ。采配や紙入れなどの遺品は大事に風呂敷に包まれ、戦が落ち着いた頃に郊外で避難しているはずの家族に届けるという。

 おますちゃんは深いため息をついた。



 「姉上も私と同じで身重だったの。娘のおみっちゃんは、まだたったの八つよ。この先どうやって暮らしてゆくのか……」



 屋敷も焼かれ、当主を失った家族は路頭に迷うしかない。
 そしてそのような家族はたくさんいるはずで、この戦いが終わらない限り、これからも増えていくはずだった。



 「しっかりするのよ、おますちゃん。あなたが姉上さまを支えてあげなくちゃ」



 おさきちゃんが真ん中にはさんだおますちゃんの肩をさすり励ます。



 「そう……そうね」



 おますちゃんの声は弱い。丹下さまの死は彼女にとって、それだけ衝撃的でこたえるものだったのだろう。



 「……おますちゃんは、いつお城に?二十三日には、とてもお城に入れなかったでしょう?」



 聞きたかったことを訊ねると、おますちゃんは遠い目を夜空に向けて教えてくれた。



 「ええ、そうね……。あの日は城下がひどく混乱していて、とても入城できる状態ではなかった」



 籠城の日に思いを馳せ、その時のことを語る。

 おますちゃんが嫁した下平家は、敵が攻めてきた甲賀町郭門に近い本四之丁にあった。喜代美の実家、高橋家と同じ通りだ。

 甲賀町郭門には玄武隊や老兵、それに白虎士中一番隊も防戦に当たったが、敵を防ぎきることはできなかった。

 敵は雪崩をうって郭内へ押し寄せた。



 「お城へ入ろうと、家族と一緒に屋敷を出たのだけどね」



 門の外に出たとたん、銃弾がぴゅうぴゅう飛んできて危なくて往来を歩けない。

 それでも塀を弾除けにして身を低くしながら進み、ようやく人の波に紛れたが、お城ではなく西へ西へと流されてしまった。













 ※こたえる……刺激や衝撃を受け、それを痛手として強く感じること。


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