雪の光
「……あんた、なの……?」
「だから、お願い。
演奏聴いて違うって思ったらすぐに追い出していいから」
「じゃあ今から追い出す」
「それはだめ!」
「……さっさと弾いてよ」
「……ありがとう」
準備をして弾き始める。
作曲者の意図なんて忘れていた。
私はあの時の気持ちになっていた。
ただただ演奏することが楽しくて仕方なかったあの時。
誰のためでもなく、自分の楽しさのためだけに弾いていた。
本当は、周りの人が私の演奏を聴いてくれていたことを知っていた。
弾き終えると、茜ちゃんは私を睨みつけていた。
その目には、涙が溜まっていた。
「……返事は、ずっと待っている。
何年かかってでも、待っているから。
……お願いします。……彗に、会わせて……」
声が震えるだけで涙は出なかった。
ヴァイオリンをしまってもう二度と来ることはないであろうアパートを離れた。