月は紅、空は紫
 若者が眠ってから、数えて四十一回目の寝返りを打った頃である。
 昼の八つ刻を数えても、未だ若者の眠りは深い。

 人間の寝返りの回数というのは、個人差があるものの約二十回が適正であると言われている。
 寝返りを打つことで、眠ることによって圧迫された身体の痛みを軽減させたり、鈍くなった血行を元通りに戻す効果が生まれる。

 そして、寝返りを打つ回数には寝具が影響するといわれる。
 布団に眠ることで、人間の身体は布団の中に数センチほど沈みこむ。

 布団が柔らかすぎれば、通常よりも深く沈んでしまい寝返りの回数が減ってしまう。
 そうなると、眠っている間の血行が悪くなり快適な眠りに就くことが出来ない。

 逆に、布団が固ければ、身体を沈めることが出来なくなり、不必要に寝返りの数が増加してしまうことになる。
 これも、寝返りに必要なエネルギーを不要に消費してしまい、疲れを回復させるはずが、逆に眠ることで疲れてしまうようになるのだ。

 若者が使用している寝具は、寝返りの回数から見て固いようである。
 医者であるにも関わらず、自身の健康にはさして気を遣っていない様子が生活の随所に垣間見える。
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