水月夜
「しーっ! 声が大きいよ! もしクラスのみんなに聞こえたらどうするの!」


「聞こえたっていいでしょ! ここで大坪さんのことを言わないでいつ言うの?」


今すぐにでも言いたいと思わせるくらいうずうずしている千尋。


ここにいるクラス全員の前で言ってしまえば、逆に直美から嫌がらせを受けてしまう。


だって、直美はこの教室にいるから。


本人の目の前で言うのはマズい気がする。


自分の友達が直美のいじめのターゲットになってしまうのだけは絶対に避けたい。


「たしかに直美が悪口言ってたのは悪いことだけど、ここで言ったら次は千尋がターゲットになるかもしれないよ? それだけは絶対に嫌なの」


「そうだよ。たとえ大坪が悪口を言ってたってことをクラス全員に言ったとしても、大坪が黙ってられないだろ。今は黙ったまま過ごすほうがいいと思う」


「雨宮くんまで……」


私の意見に同意を示してこくこくとうなずく雨宮くんの顔を見て、千尋はモニュモニュと口を動かし、少し不満そうな顔をする。


ただ、雨宮くんの言葉が正しいと思ったのか、渋々と「わかった……」とつぶやいた。


その直後、4限開始のチャイムが鳴り響いた。
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