水月夜
途端に体が引っ張られた方向に倒れそうになる。


足もとがグラッとふらついたが、なんとか踏みとどまった。


それと同時に緒方先輩が耳打ちしてくる。


「待って、柏木ちゃん。俺が探してたのは大坪さんじゃなくて柏木ちゃんなんだ」


探していたのは直美じゃなくて、私?


予想外の言葉に、まばたきをすることしかできない。


そっと先輩の顔を覗き込んだと同時に先輩と視線がぶつかり、すぐに先輩が目をそらした。


いったいどういうことだろう。


頭上にいくつかのクエスチョンマークを浮かべて疑問に思っていると、まだ帰っていなかった雨宮くんがこちらに気づいてやってきた。


先輩の背中を強引に押し、私と先輩を教室の外へと連れだした。


「なんですか、緒方先輩。柏木に用事があるんですか?」


「あれ、君は柏木ちゃんと同じクラスの雨宮くんだっけ?」


まるで今気づきましたとでもいうように首をかしげて雨宮くんを見る緒方先輩。


自分たちを教室の外へと連れだした相手の質問には答えていない。
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