水月夜
視界がぼんやりとして涙が出てきた直後、ガチャッとドアが開く音がした。


どうやら私が心の中でつぶやいていた間に目的の場所に到着したようだ。


外の景色が広がったと同時に、直美が私の手を強く振り払ってため息をついた。


直美が私を連れてきた場所は、パンを食べようと思ってた場所である屋上だった。


今屋上にいる生徒は誰もいないから、他の生徒には言いたくないことでもあるのかと思ってしまう。


「直美……?」


自分でも聞こえるか聞こえないかくらいの声で沈黙を破った。


すると、ずっと背を向けていた直美が急に体をこちらに向けてきた。


その顔は鬼を思わせる恐ろしい形相で、びくっと体が震える。


だけど、ここに連れだして『話がある』と言った理由を教えてもらうことにははじまらない。


グッと口をつぐみ、直美に問いかけてみる。


「直美。話があるって言ってたけど、いったいなんの話?」


私が問いかけた数秒後、直美が不自然なくらい怖い笑顔を見せた。


「私が話したいのはね、猪狩のことなんだけど」
< 166 / 425 >

この作品をシェア

pagetop