水月夜
「う、うん、なんとか……」


それにしても。


襟首を掴む力は強かったのに、なんであっさり離れたんだろう。


直美の手が離れた理由を知るためにあたりを見まわした。


理由はすぐにわかった。


私の目の前で直美が頬をおさえながら座り込み、その様子を聖奈が仁王立ちで見おろしていた。


直美はきっと聖奈に頬を叩かれたんだ。


呼吸を整えて見つめる私に、聖奈が腕を組んで直美に言葉をぶつけた。


「大坪さん、志賀さんと遊佐さんの言葉から逃げないでよ。ふたりが言ったこと、本当なの?」


「ふたりが言ったことって……なによ」


「隣の空き教室でクラス全員の悪口言ってたことよ!」


目を見開き、直美に怒鳴りつける聖奈。
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