ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「私、その人と結婚したの」

 私は眉を八の字にして笑いかけた。父はただ時が止まったように硬直して、思い出したように深く息を吸い込む。

「でも、無理やりとかじゃないから。その人もお見合いさせられそうで結婚相手を探していて、それで――」

 父が突然そっぽを向いたのが見えて、私は口を噤んだ。

「……お父さん。怒ってる?」

 かすかに震えている後頭部に問いかける。すると、つかの間の沈黙が流れたあと、再び父がこちらを向いた。

 その顔は思い切り奥歯を噛みしめてぐちゃぐちゃにゆがんでいて、目にはいっぱいの涙が滲んでいた。

「怒れるわけないだろ。自分が情けなくて、許せない。お前にそんなことまでさせて。お父さんがもっとしっかりしていたら、お金のために結婚なんてしなくて済んだのに」

 衝動を抑えようとしているのか、父はところどころ途切れさせながら震えた声で続けた。
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