ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
――風が冷たい。午後もずいぶん短くなった。吐く息が暗い夜空に昇っていくのを見つめながら歩く。
あれから公園で日雇いの求人を探していくつか電話を掛けたけれど、結局仕事は決まらなかった。
「相原さん、ですか?」
とぼとぼと店の前まで帰ってくると、置き型の看板のそばに立っていたスーツ姿の茶髪の男性がこちらを向く。
私が「……はい」と答えると、男性は胸ポケットから名刺を出してこちらに差し出した。
「先ほどお電話した株式会社ワンキャッシングの井原です。どうでしょう。利息分だけでもご都合はつきそうでしょうか」
私は名刺を受け取りつつも、店先にもかかわらず本題から切り込んでくる男性に戸惑った。
目付きの鋭く、しっかりと固められたオールバックという威圧感たっぷりの風体。ただでさえ身長が百五十五センチほどしかない私は、見下ろされるとそれだけで萎縮してしまう。
「すみません。少しだけ待っていただけませんか? 少しずつでも必ずお返しします。父の治療費やお店にもお金がいるので、今すぐには――」
「こちらも慈善事業じゃないんですよ」
男性の声色が一気に冷ややかになった。それなのに顔はニッコリと笑顔を浮かべていて、あまりの恐怖に全身が硬直した。