ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 柴坂常務の下の名前、颯馬っていうんだ。知らなかった。

「颯馬、さん?」

 私は、たしかめるように恐る恐る口にする。

 颯馬さんは、「うん」と嬉しそうに頬を緩めた。不意にほっと緊張が解ける。

 ……柔らかい表情。

 怖い人だと思っていたわけではない。現に利害が一致したからとはいえ、こうして私を助けてくれたのだから。だが、彼がどんな人物なのかなにも知らないがゆえの不安もたくさんあったのは事実だ。

 変な話、形だけなんて言いながらも無理やり身体を求められるなんてこともあるかもしれない……と危惧したりもした。

 けれど、先ほどの顔を見ていると、そんな心配も杞憂だったという気になる。

 そもそも、疑うなんて失礼だったよね。

 いささか後ろめたい気持ちになった。
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