ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「あ、そうだ。入籍の前に、俺の両親にも会ってほしい。会わせないと、納得してくれそうにないから」

「はい。もちろん」

 私がうなずくと、颯馬さんは安堵したように「ありがとう」と息をついた。

『お金で買ったようなものだから』そんなふうに言うのに、彼は私をひとりの人間として扱う。むしろ、気遣いさえ感じられた。煩わしいのは嫌だって言っていたのに。いっそ、強引に「来い」と命令してくれればいい。その方が、幾分か楽かもしれない。

 なにかを期待するように轟く胸に嫌気がさす。私は手の中の茶封筒を、強く握りしめた。

 これは仕事。甘えちゃダメだ。

「ルールはその都度ふたりで決めていこう。今日はもう遅い。風呂が沸いてるから、先に入っておいで」

「颯馬さんが先に……」

「俺はやりたいことがあるんだ。風呂はリビングを出て左にあるから。ゆっくり温まっておいで」

 言い終えた颯馬さんは、私の頭をポン、と叩いて、私の部屋の隣にあるドアの向こうへと消えていく。私はしばらく呆然としたあと、ふーっと長い息を吐き出した。

「……係わらないでそばにいるって難しい」

 私のひとり言は、高い天井に吸い込まれていった。
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