ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「緊張してる?」

 こちらに近づいてきた颯馬さんが、おもむろにこちらを覗き込んだ。冷たいほどの美しさをたたえた瞳が目の前にあって、思わずドキッとする。

 またしても眺め入ってしまいそうになり、私は勢いよく顔を背けた。

「あの……本当に大丈夫でしょうか?」

 弱々しい面持ちになる。

 今の私は、着慣れない服を着ている落ち着かなさと、これから訪れる大仕事への不安で頭の中がいっぱいだった。

 私が情けなく視線だけを上にあげると、それを見た颯馬さんがふっと笑う。

「大丈夫。昨日練習した通りにやれば平気だ。困ったら、君は笑っていてくれればいい。あとは俺がなんとかするから」

 そう言い、私の頭を優しくなでた。その手の温かさに、肩の力がわずかに軽くなる。

「でも……」

「そんなに思い詰めてたら、ホテルに着くまでに疲れる。もっと別のことを考えてリラックスして」

 別のこと?

 私は子首を傾げた。必死に思いを巡らせるけれど、

「……難しいです」

 この状況ではなにも浮かばなかった。
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