ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~

 食事を終え、お父様とお母様とホテルで別れた私たちは区役所に寄って家へ帰ってきた。

 ワンピースからセットアップの部屋着に着替えた私は、リビングにあるソファーに座ってぼーっと窓の外を眺める。なんとなく落ち着かず、そばにあったクッションを抱えた。

「はい」

 柔らかな声とともに、芳醇な香りに鼻腔をくすぐられる。辿るように見上げると、そこには両手にマグカップを持った颯馬さんが立っていた。

「あ、ありがとうございます」

 慌てて彼の手からひとつカップを受け取る。すると、スーツのジャケットを脱いだだけの颯馬さんも隣に腰を下ろした。ソファーがわずかに沈み、革がぎゅっと鳴る。横目に空いた方の手でネクタイを雑に緩めているのが見えた。

「疲れただろ」

 突然声を掛けられ、私は肩を小さく揺らす。

「……少し」

 区役所で婚姻届を提出して、私たちは正真正銘夫婦になった。

 その瞬間からなにかが変わったわけではないが、形式上は私も【柴坂】になっているのだと思うと不思議な気分になる。
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