三十路令嬢は年下係長に惑う
食後のアイスティを飲みながら、水都子は真昼に言った。

「間藤さんってどんな人?」

「ちょっと偏屈、というか、仕事はできるんだけど、できるからこそ効率重視っていうか、あるじゃんほら、慣例みたいなやつ、能力はいまいちだけど社内の中枢に食い込んではいて、ないがしろにできない人間」

 ものすごく具体的に人物を想像するように真昼が言った。

 しかし、そういった人物は、水都子も心当たりがある。もちろん入社したばかりのポラリスリゾーツでは無く、元々居た会社の方だ。

「そういう人間にもズバっと言っちゃったりするんだよね、私は嫌いじゃないけど、下手にフォローすると、色々言われるからさ、社長のお気に入り、とかなんとか」

「もしかして、間藤さんって独身なの?」

 真昼と噂になるようなら、恐らくは独身なのだろうと思って水都子は続けた。

「めんどくさいから早く誰かとくっついて欲しいんだけどね、そう、独身」

 真昼は、水都子に男として気になるか、とは聞かなかった。実際のところ、しばらく恋愛はこりごりだというのが水都子の素直な気持ちであったし、傷が生々しすぎて誰かと添う事は今は考えたくなかった。始まることも無く終わった恋でも、次の行動の為の気力は奪われる。

「お姉ちゃんなら、立場的にそういう人たちからはないがしろにされないだろうし、フォローしてもらえれば助かるなーと」

「うん、それは、理解してるつもり、ただ、システム課で私が役に立つかはわからないけど」

「いきなり現場に行くよりはマシじゃない?」

 真昼は少し突き放すように言った。ポラリスリゾーツは、ホテル事業やアミューズメントパークの運営を行っている。ここで言う現場というのは、接客の前面へ立つ事を意味する。それこそ、学生時代に少しウェイトレスをやった程度の自分が、接客で役に立てる気はしなかった。

 前の会社ではバックオフィス、営業補佐だった。パソコンの基本操作はできるが、それ以上の事を求められて対応できる自信は無い。

「鈴佳にはよく頼んでおいたし、わからない事があったらあの子に聞けばいいよ」

 真昼の言う鈴佳とは、神保鈴佳の事だ。入社して、人事の上田を除けば一番最初に会った社員。確かに、彼女であれば、人当たりは良さそうだ。

「鈴佳は間藤の子飼いでもあるしね」

「どういう意味?」

「大学の後輩なんだって」

「そうなんだ」

「だからってわけじゃないけど、シス課はちょっと学生サークルみたいなノリがあるんだよね、なんか皆して仲いいし」

「仲良しだと悪いの?」

「悪くはないけどさ、ちょっと排他的なところだ出てきちゃうのはよろしくない、それでなくても、他部署に対してアドバンテージがある分、上からモノを言う形になりがちだからね」

「そんな状況で経営者の縁者が入るのはまずいんじゃないの?」

「でもお姉ちゃんバランス感覚あるし」

 褒められているのかくさされてるのかわからず、水都子は少しだけ複雑な顔を作った。
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