三十路令嬢は年下係長に惑う
ポラリスリゾーツの女子社員達
出社初日は何事も無く済んでいった。水都子は白井と共に各部署へ挨拶に行ったが、若い社員はものめずらしそうに、高役職者や役員などは孫か娘を見るようで、どうにも居心地が悪かった。

「歓迎会をしたいんですけど、予定ってどうですか?」

 就業時間が終わってすぐに、白井と中野に声をかけられた。

「私の方は特に無いです、みなさんのご都合のいい時で」

 水都子が言うと、

「あ、したらスケジュール調整サイトのURL送りますんで、ダメな日を入れておいてもらえますか」

 中野が自席に戻り、カチャカチャとキーボードを操作すると、ほどなくしてチャットアプリ経由でURLが送られてきた。

「明日でもいいですか?」

 水都子が言うと、二人とも、もちろん、と返した。

 初日であるし、もう少し残るべきかとも思ったが、昼休みに立ち寄った書店でもう少し見てみたい気持ちのあった水都子は定時で会社を後にした。

 ほんの少しではあったが、居心地の悪さがあったせいでもある。

 水都子は制服では無いが、制服を着ている女子社員達がまとまって更衣室から出てくるところに出くわし、同じエレベーターで一階まで降りる。

 自意識過剰かとも思ったけれど、どことなく見られているような気がして、水都子は背筋を伸ばした。

「どうぞ」

 そう言われて先に降りた水都子の背後の方で、クスクスと押し殺したような笑い声が聞こえたが、気にするまいと振り切るように足を動かした。

 そういえば、女子社員の一団の中に朝見た受付の女子社員が混ざっていたような気がしたけれど、振り返って確かめる気持ちにはなれなかった。

 向かうのは、当初新居のつもりで父に購入されてしまったマンションだ。売ることも考えたが、父としても詫びのつもりか、格安で貸してくれるらしい。ポラリスリゾーツのすぐ近くにあるあたり、もしかしたら真昼か慎夜あたりに使わせるつもりがあったのかもしれないが、慎夜の方は親がかりになりたくない気持ちがあるのか大学時代から住んでいるマンションへ住み続け、真昼の方は実家から出るつもりは無いようだ。

 真昼は、もう婿をとる事にしているのかもしれない。時折そう思う事があった。

 ならば、と、家を出たいと思っていた水都子は甘える事にした。結果的にそうなったとはいえ職場にも実家にも近く、セキュリティもしっかりしていて、初めての一人暮らしの不安が多少なりとも緩和される。

 自分の為だけに家事をし、自分の為だけに料理を作る、寂しくもあったが、今は一人である事が気楽だった。
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