三十路令嬢は年下係長に惑う
「鈴佳さん、今日うち泊まってく? ここから近いし」

「ええっ! いいんですか?!」

「遊佐さん、あんまりこいつを甘やかさない方がいいですよ」

 すかさず間藤が言うと、

「お泊り! したいです!」

 鈴佳が水都子の提案にあっさり同意した。

「お前なー、ずうずうしすぎるぞ」

 間藤がたしなめると、

「そんな、たまのことだし、明日はお休みだから、うち、あまり広くないけど、かまわない?」

「もちろんです! わーい!」

 上機嫌の鈴佳は早速焼酎のロックを注文した。

「……遊佐さん、こいつ本当に酒癖悪いですよ?! いいんですか?」

「え、ええ、数少ない女性社員同士だし、鈴佳さん、けっこう鬱屈が溜まっているようにも見えるから、ガス抜きになるなら」

 水都子が言うと、間藤はあきらめたようにため息をついた。

「まあ、いいですけど」

 水都子は、間藤と距離の近い鈴佳をうらやましい気持ちで見ていた。けれど、どちらをうらやましいと思っているのだろう、とも思った。

 鈴佳と仲の良い間藤をうらやましいと思っているのか、それとも、

 間藤と仲の良い鈴佳をうらやましいと思っているのか……。
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