三十路令嬢は年下係長に惑う
「結局なんだったんだよ、あれ」

 水都子と鈴佳を囲むような形で座ると、間藤がまず聞いてきた。

「あー、あれはですね」
 
 水都子がわずかに表情を曇らせると、鈴佳が探るように水都子を見た。

「……坪井さんの勘違いというか」

 言葉を濁そうとする水都子に、間藤が言った。

「どうせちょっとした操作ミスだったんじゃないですか?」

 図星だったようで、水都子は肩をすくめ、他、一同もやっぱりという顔を作った。

「嫌がらせなんですよ、ある種の」

 鈴佳が唇を尖らせた。

 オツボネ様こと坪井未優子は、どうも鈴佳を目の敵にしているフシがある、というのは、システム課男性陣の総意らしい。中野がささやくように水都子に言った。

「坪井は間藤さんを狙ってるんですよ」

「はい?」

 思わず水都子が大きな声をあげてしまい、あわてて自分で自分の口を抑えた。

「最初は副社長狙いっぽかったんですけどね、あまりにも逃げられるので諦めて、間藤さんの将来性にかけてるみたいです」

「でも、間藤さんって、まだ係長……ですよね?」

「役職的にはそうですが、実質課長代理みたいなものですからね、副社長曰く将来的には部として昇格させたいようですから、未来の部長と考えれば、そういう動きも考えられなく無いですか?」

 年齢的には間藤よりもずっと上のはずの白井は自分のことなど棚に上げているようにして言った。

「だからって……」

 水都子は、そうは言いながらも、間藤と鈴佳の距離の近さ、大学の先輩後輩だからという事もあるが、会話においての遠慮の無さは感じていた。なるほど、間藤に対して好意を持っているからこその悪意だったのか、と、不思議と納得できた。

「まあね、二人で出張に出る事もあるし、アヤシイと思われるのも無理は無いかもしれませんが……」

 言いかけて、白井は水都子のジョッキが空になっている事に気づいて次のオーダーを尋ねられた。

「あ、次、何飲みますか?」

「ええと、じゃあ、焼酎のロックで」

「焼酎? ロックで? お強いんですねえ〜」

 驚いた様子で白井が言うと、それを見た鈴佳も、

「あ! 私も同じの下さい!」

 と、言って間藤に止められた。

「ダメだ、お前はソフトドリンクにしておけ」

「えー、たまにはいいじゃないですかあ!」

「お前は酔っ払うと面倒くさいんだよ」

 言い合う鈴佳と間藤を男性陣は生ぬるく、暖かく見守っているようにも見えた。
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