三十路令嬢は年下係長に惑う
「えー、神保さん、つぶれちゃったんですかあ?」

「オツボ……じゃ、なくて坪井さん、なんでここに」

 目黒が唐突に姿を表した坪井を警戒するように尋ねると、近くの店で友人と飲んでいて偶々通りかかったという。

「……そのわりに、鼻水たらしているように見えるのは俺の気のせいですかね」

 ぽつり、と、水都子にだけ聞こえるように中野が言った。

 そういえば、坪井から依頼のあったトラブル対応を終えた後、自分と鈴佳は急いでこの店に向かったが……後を着けられたのか、しかし何故、何のために、水都子も驚いている。

「もう歓迎会は終わりですか? それとも二次会? えー、私もまざりたぁーい」

 甘えたような声を出す坪井に中野と白井、目黒はやや引いている。

「いや、今日はこれで解散だから」

 きっぱりと中野が言い、間藤の方へ目配せをする。絶妙の呼吸で白井がタクシーを止めて、水都子に乗るように進めた。

「スズさん酔っちゃって、はいはい、乗って乗って〜」

 目黒が眠っている鈴佳を抱えた間藤ごとタクシーの後部座席に押し込める。

「じゃあ遊佐さん、あとお願いしますね〜」

 にこやかに見送る目黒と白井、坪井をブロックするかのように立ちはだかる中野、と、息の合った連携を見せて、水都子と鈴佳、間藤は車上の人となった……。

 水都子が、素早く運転手に目的地を告げてタクシーが出発すると、三人を見送り、あきらめた坪井が去っていくのを確かめた上で、残されたメンバーは揃って馴染みのバーに向かって歩き出した。
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