三十路令嬢は年下係長に惑う
一方タクシーの中では……。

「……すみません、なんか、俺まで勢いで」

 恐縮した様子の間藤が、三人並んだ後部座席で小さくなっていた。完全に熟睡している鈴佳の頭を肩にのせて、水都子は、

「いえ、緊急事態でしたし」

 と、つぶやいた。

「それに、私一人で鈴佳さんを部屋まで連れて行くのは難儀をしそうでしたから」

 鈴佳は、水都子よりも背が高い。太っているという印象は無いのだが、どことなく骨太な感じは、背負って登るのに苦労を伴いそうだった。

「神保を置いたらすぐ帰りますから」

 居心地悪そうに間藤が言った。

「……はい、そうして下さい」

 間に鈴佳を挟んだまま、車内には気まづい沈黙が流れていた。水都子は、取り急ぎの話題が思いつかなかったし、会社から水都子のマンションは近く、すぐに着いてしまいそうだったからだ。

 しかし、週末の夜の事で、道は混雑していた。予想よりもずっと長い時間を車内で過ごしてから、三人は水都子のマンションへ到着した。

 水都子が先導し、鈴佳を背負った間藤が着いてくる。

「すみません、散らかっていて」

 水都子が扉を開けて、鈴佳の靴を脱がせるのに苦労していると、

「……ぎもじわるい」

 唐突に、鈴佳が瞳を覚ました。

「あ、鈴佳さん起きた? 今、うちについたから、ちょっと待ってて」

 水都子が、間藤の背から鈴佳を降ろして歩かせようとした、その瞬間……。

 鈴佳が、間藤の背中に向かって、酒臭い吐瀉物を一気にぶちまけた。
< 35 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop