三十路令嬢は年下係長に惑う
眠っている鈴佳を気づかいながら、来客用の寝具を整えて、さて、自分はどこで眠ろうか、と、思い至った。
水都子のベッドはセミダブルで、鈴佳と並んで眠る事ができるにはできるが、鈴佳が、夜中また気分が悪くならないとも限らない。同じベッドに眠っていて、さっきの間藤と同じ目に会うのは、少し遠慮したかった。
かといって、リビングとなると、ソファーベッドに寝かせる予定の間藤との距離が近すぎる。
寝室のベッドの横に、クッションを敷いて眠るしかなさそうだ、と、自分の寝床を整えていると、リビングの扉が開いて間藤が現れた。
水都子の出しておいた慎夜のスウェットは、わずかに丈が足りないようではあったが、心配するほどおかしくは無い。
日頃はセットしている髪は、洗いたてでおろしてあり、間藤を、普段よりずっと若く見せていた。大学生と言っても通るのではないだろうか。
「すみません、その、色々と」
所在無さそうに立っている間藤に、ダイニングチェアを薦め、水都子はカウンターの向こうのキッチンまで移動して、飲み物の準備をした。
遠慮する間藤の前にガス入りミネラルウォーターの瓶とグラスを置くと、喉が乾いていたのか、間藤はグラスに注いで一息に飲み干した。
「じゃあ、私、洗濯しちゃいますから」
そう言い残してバスルームへ向かおうとすると、
「いや、俺は……」
「今日は、もう泊まっていって下さい、スーツ、あのままじゃ帰れないと思いますし、終電の時間も、……あ、そこのソファーベッド使ってくださいね」
間藤が何かを言い返す前に、水都子はリビングを出た。部屋に男がいる光景など、別にめずらしい事ではないのに、部屋にいる間藤の姿に、水都子は目を奪われていた。
驚くほどに無防備な様子は、日頃の隙の無さそうな間藤とは随分違って見えた。それは、初めて出会った時の印象とも違っていた。
初めて会った時は、どこか皮肉めいて、人を食ったような印象だった。水都子は、自分の弱みを見られたという事で警戒してはいたが、それでも、どこか間藤の瞳は優しかった。
次に会った時は、職場でだった。頼れる上司のようでありながら、部下の為には感情を動かすようなところで、目が離せなくなった。
ダメだ、と、水都子は思った。
汚れてしまった間藤のスーツを手洗いで一度すすいでから、洗濯機にかける。
鈴佳と間藤。大学の先輩後輩なのだと言っていた。間藤は、彼女が自分のせいで女性社員から、特に坪井からうとまれているという事を、知っているのだろうか。
水都子のベッドはセミダブルで、鈴佳と並んで眠る事ができるにはできるが、鈴佳が、夜中また気分が悪くならないとも限らない。同じベッドに眠っていて、さっきの間藤と同じ目に会うのは、少し遠慮したかった。
かといって、リビングとなると、ソファーベッドに寝かせる予定の間藤との距離が近すぎる。
寝室のベッドの横に、クッションを敷いて眠るしかなさそうだ、と、自分の寝床を整えていると、リビングの扉が開いて間藤が現れた。
水都子の出しておいた慎夜のスウェットは、わずかに丈が足りないようではあったが、心配するほどおかしくは無い。
日頃はセットしている髪は、洗いたてでおろしてあり、間藤を、普段よりずっと若く見せていた。大学生と言っても通るのではないだろうか。
「すみません、その、色々と」
所在無さそうに立っている間藤に、ダイニングチェアを薦め、水都子はカウンターの向こうのキッチンまで移動して、飲み物の準備をした。
遠慮する間藤の前にガス入りミネラルウォーターの瓶とグラスを置くと、喉が乾いていたのか、間藤はグラスに注いで一息に飲み干した。
「じゃあ、私、洗濯しちゃいますから」
そう言い残してバスルームへ向かおうとすると、
「いや、俺は……」
「今日は、もう泊まっていって下さい、スーツ、あのままじゃ帰れないと思いますし、終電の時間も、……あ、そこのソファーベッド使ってくださいね」
間藤が何かを言い返す前に、水都子はリビングを出た。部屋に男がいる光景など、別にめずらしい事ではないのに、部屋にいる間藤の姿に、水都子は目を奪われていた。
驚くほどに無防備な様子は、日頃の隙の無さそうな間藤とは随分違って見えた。それは、初めて出会った時の印象とも違っていた。
初めて会った時は、どこか皮肉めいて、人を食ったような印象だった。水都子は、自分の弱みを見られたという事で警戒してはいたが、それでも、どこか間藤の瞳は優しかった。
次に会った時は、職場でだった。頼れる上司のようでありながら、部下の為には感情を動かすようなところで、目が離せなくなった。
ダメだ、と、水都子は思った。
汚れてしまった間藤のスーツを手洗いで一度すすいでから、洗濯機にかける。
鈴佳と間藤。大学の先輩後輩なのだと言っていた。間藤は、彼女が自分のせいで女性社員から、特に坪井からうとまれているという事を、知っているのだろうか。