三十路令嬢は年下係長に惑う
何故、坪井がそんな事を？

　水都子が動揺し、気がつくと間藤へコールをしていた。誰かがあの事を知っていたとして、家族以外にそれを知っているのは間藤だけのはずだった。

　間藤がそんな事を第三者、ましてや、間藤自身が嫌っている様子のある坪井に対して話して聞かせるとは到底思えなかった。しかし、確かめずにはいられなかった。

　数コールで、間藤の声がしてくる。

　間藤の、「もしもし」という声にかぶせるように、水都子が言った。

「間藤さん、あなた、まさか坪井さんにあの事」

　思いの丈をまくしたてようとしたその時、ふいに音声が途切れた。

「間藤さん？　間藤さんッ！」

　繰り返しても間藤からの返事は無い。何が起きたのか、水都子は一瞬わからなかった。もしかしたら、移動中だったのだろうか。そうであれば、出社してきた間藤を捕まえる他無い。足が震え、目の前が暗くなる。

　よろめくように、水都子は自席へ向かった。
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