三十路令嬢は年下係長に惑う
三人で席へ戻ると、どこから聞きつけたのか、坪井がやってきて鶴見を問い詰めていた。

「ああ、お帰りなさい」

 助かった、という顔をして、鶴見が言うと、坪井は水都子の姿を見てあからさまに口元を歪ませた。

「坪井さん、何かありました? プリンタの出力先が変わったなら確認の仕方は先日ご説明しましたが」

 どうにも鈴佳は人を逆撫でする事があるようで、そのあたり、間藤と鈴佳は少し似ている。今日も言わなくていい余計な一言を最初に言ったせいで、坪井は金曜の夜の事を思い出したのか、憤慨した様子で標的を鶴見から鈴佳へ切り替えた。

「それは……もう解決したじゃない、いちいち言わなくてもわかってるから」

「えー、でも、あれ、私説明するの三回目なんですけど……お願いだからメモをとって下さいってあんなに……」

「だからそれはもういいって! 私が来たのはあれよ、間藤さんが怪我をしたって聞いて、どうなのかなって」

「あー、私達も電話で話をしただけですが、声の感じでは普通っぽかったですけど」

「だから! お世話する人はいるのかって話よ!」

 坪井の指摘は大きくずれているというわけではないのだが、それは果たして会社で話し合うべきなのかと思う部分はあって、水都子と鈴佳は顔を見合わせた。

「いや、それ、坪井さんと関係あるのかなっと」

 ダメ押しの鈴佳の無神経発言が、炸裂して坪井はますますヒートアップした。

「同僚の怪我を心配するのは人として当たり前のことでしょうッ!」

「そんな事はわかってますけど、もう病院で治療もされてますし、今後の事はこれから本人と話をしますから、大騒ぎしないで下さいよ」

「何であんたがそんな事を言うのよッ おこがましいのよッ!」

 感情的になって裏返る坪井の声がフロアに響く。さすがにこれはまずいな、と、水都子は坪井と鈴佳を連れてミーティングスペースへ連れて行く。

「ほら、ここじゃなんだから、ちょっと向こう行こう、ごめんなさい、白井さん、ちょっと話てきますんで」

 水都子が言うと、白井は同情したようにお願いします、と答え、同じく鶴見も同情的な視線を送ってよこした。
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