三十路令嬢は年下係長に惑う

「間藤さん、入院なんですか？」

「入院はしないみたい、今日の夕方には帰宅するって、……でも、明日は休んだほうがいいでしょうねえ」

「ああ、さっき部長が無理しないで休むよう言ってました、俺の方からメールしておきます」

「大怪我はしてないみたいだけど、手に怪我をしてるみたいだから、しばらくは仕事にならないかもしれないし……」

「骨折？」

「ではないみたい」

「間藤さん、どうするのかなー、お兄さんちに行くのかなー」

「病院にも来てた方ですね、近いんですか？」

「お兄さんの職場は都内ですが、長距離通勤らしいんで、間藤さんは自分の部屋へ戻るんじゃないかなあ、アパートの方が近いはずだし」

「……間藤さんちって、相変わらずアレなのか？」

　白井が訪ねると、鈴佳が言葉を濁すように、水都子を一瞥してから続けた。

「あー、私は最近行ってないんでわかりませんが、……多分あのままなのではないかなーと」

「あのまま、って？」

「あまり、健康的でも文化的でも無い感じのお部屋……です」

「帰って寝るだけの部屋だからって事で、住環境がかなり悪いんですよ、間藤さんちは」

「風通しが悪いしー、湿気も多いし」

「それは、怪我人には酷な環境かもしれませんね……」

　そんな環境にいるくらいなら、入院した方がよいのでは？　と、水都子は思ったが、病院は病院で、また制約が多いであろうから、長居はしたく無いのかもしれない。

　かといって、では家へ、と言うのもおかしな話だな、と、水都子は一人で飛躍しすぎた自分の考えをあわてて否定した。

　しかし、間藤と連絡がとれなくなったのは、水都子が電話をかけてすぐの事だ。まさか自分の電話のせいで怪我をしたのか……。

　水都子は、結婚式の事を間藤が坪井に漏らしたのではと疑っていた事すら忘れて、間藤の身を案じた。

　……何を考えているのだろうか、自分は。と、赤面しながら、かといって他に妙案も無いまま、昼休憩は終わった。